俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 母親がトイレに行くあいだ。化粧をするあいだ。家事をするあいだ、無料で安心して面倒を見てくれるひとが近くに居たら。

 どんなことがあっても、叩くことはいけないんだよ、とやさしく強く教えてくれるひとがそばに居たら。また彼ら自身がそう教え込まれて育っていたなら。

 子どもをいじめればすぐ分かるオープンな環境で子育てをできていたら。

 行き詰ったときに、安心して子どもを任せられるばあばや身内がいたら。そして親はその間、リフレッシュなんかできていたら。

「……児童相談所の人間が無力だなんておれは思わない」首を振り、祈るように指を組み合わせる男。「話を聞いてやるのも大切な仕事だ。そこから糸口が見つかるなんてこともある。おれがいま試みているのは、そのたぐいのことだ。――聞くが。

 嫁さん。出産して三ヶ月が経つんだよな。向こうで二ヶ月。こっちに戻ってきて一ヶ月。おまえその間。

 嫁さんの喜怒哀楽。……見たことがあるか?」

 あ、と丈一郎は声を出す。産後の綾乃ときたら――
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