俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
「だな」と男は腰を浮かす。話が終わりと言いたげに、「とりあえず今日はこんくらいにして帰るぞ。論より実践。続きは電車んなかで話しても構わない」

 男は、五歳の男の子と三歳の女の子を持つ父親だ。子どもたちは、まだまだ手がかかる年頃ゆえ、延々会社の男と話し込める状況に無いのだろう。

「あざっす」丈一郎も手早くコートを着、会計伝票を持つ男に続く。丈一郎がお礼も兼ねて支払おうとしたところ「馬鹿やろ」と一喝された。

 ――んな金があんなら嫁さんが喜ぶもんを買ってやれ。香りのいいハンドクリームでも。

 颯爽と店を出る。男の足は速い。場所は確かに――男の言うとおり、新宿にしておいて正解だった。新橋だと会社関係に聞かれる可能性も否定できない。

 帰りは、同じ小田急線沿線に住んでいるゆえ、続きの話もできた。といっても、男は十五分程度で電車を降りたが。去り際。

「――毎日、ちゃーんと相手の目ぇ見て話すんだぞ。

 そーゆーのが大事」

 鉄面皮。無愛想。仏頂面。――で有名なこの男にしては、思いのほかエモーショナルなことを言うものだ。エモコアというやつか? 丈一郎の内面での動きを知らず、男は、
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