俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
「……顔見れば。

 なにに困ってるのか。なにに苦しんでるのか。――だいたい。

 数秒で分かるようになるから。

 そーゆー感情のやり取りってのが、結婚の醍醐味だと、おれは思うね……。

 子どもも含めて」

「ラブラブじゃないっすか蒔田(まきた)さん」

「でもないぞ」と男。「育休おれも取ったときなあ。歯医者だの病院だの美容院だの子どもほったらかしで行ってたらあるときカミさんに怒られた。

 蒔田さんあなた、自分の用事を済ませるために育休取得したんですか、……てな。

 なのでおれもひとのことは言えん。すべて――教訓だ。

 教訓は、活かすためにある。おまえもそれを活かせ」

 ここで到着。じゃーな、と素早い足取りで降りていく。その背中に向かって丈一郎は、

「あざっす蒔田さん!」

 周りの人間が注目するくらいの大声を出してしまった。振り返ると男は薄く笑い。手を振り――人混みのなかへと消えていった。

 出入り口付近の、座椅子の壁に寄りかかり彼は思う。――大切なのは。

 綾乃の、気持ち……。

 綾乃がなにに苦しみ。なにに悲しんでいるのかを、分かってやること……。
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