俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 見たこともないほどに頬を赤く染め、弱々しく発言したあの言動が嘘だったとは、どうしても綾乃には思えない。

 だから、綾乃は信じることにした。

 過去の自分も、いまの自分も。

 自分の主観こそが絶対だと思い込み、意見をあますことなく伝えるのが正義だと考える人間は世の中に多い。我慢できない人間も多い。著名人が『しでかした』際のネットニュースのコメントなんかまさにそれだ。……市民が権力を持つ現代社会においては発言の『威力』を軽視してはならぬが。ときには。言い放つだけではなく。相手に判断を委ねること。その人間が自分から『気づく』のを待つ瞬間も必要なのだ。なにかを『変える』にはそれなりに『技術』が求められるのである。誰かを育てるときになどは特に。それが、相手を『信じること』。待つのも見守るのも勇気と覚悟が必須。会社で後輩を指導する立場になってみて、綾乃は気づいた。

 分かっていても黙ってくれていた恵琉の、偉大さが分かった。

 指摘されていたら激怒してますます一条とのことに意固地になっていたかもしれない。

 綾乃は、恵琉に信頼と感謝の念を抱いている。
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