俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 その思いは、ときに声に出して伝えるべきだと思った。「本当に、……すごいよね、恵琉って。

 二十歳で結婚して仕事も子どもも持ってるのに、落ち着いてるし、……押し付けがましくないし。

 スタイルいいし、身奇麗にしてるし……、本当に、わたしの憧れだよ」

「平日は髪振り乱しておるわいね」髪を耳にかけ、また恵琉が笑う。「ネイル塗る暇もないもん」

 恵琉は、同郷の人間相手に喋るときだけ、方言を使う。

 それは上京して間もない頃。『東京』に慣れることに必死だった綾乃の目には眩しく映った。

『故郷』を捨てるのがクールでかっこいいことなのだと当時は思い込んでいたが。

 恵琉と出会っていなかったら、年に一回欠かさず故郷に帰る習慣を絶っていたかもしれない。

 綾乃がこうして恵琉に会うのは、恵琉の新築の一軒家を訪れて以来だった。あれから五年は経つだろうか。忙しい恵琉は、なかなか気軽に友人と会う時間も作れず、育児と家事に必死に奔走している。電話で喋ることはあれど。
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