俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 いっとき忘れかけていた悲しみや憎しみの情がこころの表層に浮かび上がりかけるのを封じ込め、わたしは肉を口に入れた。

 たまらず、笑みがこぼれる。「うん。美味しいね。けいちゃんの言うとおり、肉はごまだれで野菜はポン酢で食べるのがなんか、美味しいね」

「だろだろ?」得意気に言い彼は手酌をする。気を遣われるのが嫌いな男だ。「にしても、しゃぶしゃぶっていいよな。二人で食うと超旨え」

「……一人でしゃぶしゃぶ作る気にはなれないもんね。鍋ならともかく……」

「まーな」

 けいちゃんは、わたしの大学一年の頃からの友人である。

 大学卒業後、偶然にもわたしの住むマンションの近くに住み始めた彼とは、時々、どちらかの部屋でこうして自炊をする仲だ。

 一人暮らしで食事を作るのはかったるい。けどひとりで外食する気になんかなれず、されどテイクアウトの濃い味じゃちょっとなあ、……というときに、とてもありがたい存在だ。

 勿論、食費が安く済むという意味でも、一人暮らしの孤独を埋めてくれるという意味でもありがたい。

 食事をした流れでどちらかの家に泊まることもある。男女関係には、勿論、ない。
< 7 / 259 >

この作品をシェア

pagetop