俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~

 丈一郎とこうなる前は、丈一郎のことを男として意識せぬよう努めてはいたが、その意識こそが彼をなにものでもない『男』として綾乃のなかにつきまとい――

 端正な顔を持つ彼に真っ直ぐ見据えられ心臓の鐘が激しく音を鳴らしたこともあった。

 お皿に盛った鍋料理を、汁まで残さず『うめーっ』と平らげる姿。

 しめのお茶漬けをいつかのCMの男のようにかきこむ姿。美男子ゆえ、いずれも様になった。

 なんど見ても、飽きることなどできず。

 綾乃は、頬杖をついていつもそんな彼の姿を眺めていた。『観察する』という表現が正しいくらいに。

 大きな図体を丸めて料理に向き合う姿。お皿を持つ、血管の浮いた手の甲。広い肩幅。突き出た喉仏。

『おまえ、結構早い段階で、おれに惚れてたんだよ』――彼がああ言った通り、確かに、綾乃は丈一郎のことを意識してはいたのだ。自覚するのが遅かっただけで。

 いま思えば、一条誠治への恋心は、小学生の頃のそれと似ていた。相手と真摯に向き合う要素よりも『憧れ』の要素が強かった。

 丈一郎とこうなったいま、あれは、丈一郎に対する感情とは別のものだと断言できる。
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