俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 けれども、自制心や羞恥心のほうが勝ってしまう。いつも丈一郎に求められ、自分を見失うばかりで。

 ひょっとしたら、自分は、ひどく自己中心的な人間なのではないのか。

 自分の乳房をこすりつけて、綾乃は感じないわけではなかったが――彼に、与えられたものをちっとも返せてはいないのではないか。

 そう思うと、胸の奥から、栓を開いたかのように、悲しみがあふれ出てくる。

「けいちゃん……」

「綾乃。……お?」丈一郎が、目を開いた。綾乃の行動に、気づいたようだ。彼の口の端が弓なりにあがる。「おまえ、……そういうこと、してくれるのは嬉しいけどさ。おれが完全に起きてるときに、してくれるほうが、もっと、嬉しい、かな……」

 丈一郎が顔を歪める。彼の状態は、彼に密着している綾乃には分かりきっている。

 なので、行動を起こす。

「ちょ。綾乃……!」

 やるなら、いましかない。

 綾乃は歯の奥を噛み締める。

 難しい。うまく、滑らない。
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