俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 ちゅ、と音を立てて彼の鼻の頭にくちづけてみる。「それに、……おっぱい好きなひとも……」

「たまんねえな……」誘発されてか。彼の手が綾乃の乳房をわしづかみにする。「そういうこと言われっと、また、可愛がりたくなっちゃうよ」

「いいよ、けいちゃん」綾乃は、手を伸ばして彼の短い前髪に触れた。より、彼の表情が見えるようにし、「できたら、そのあと、……

 そのまま、挿れて」

 開いていた彼の口が、閉じた。

 横を向き、手で顔を押さえ、はーっ、と息を吐く。……どうしたのだろう。

 愛し合っているのだから、そうするのは当然ではないか。

 綾乃は、丈一郎が言葉を発するのを待った。

「……順序ってものが、あるんじゃないのか」

 だがその言葉は。

 綾乃の予想を裏切るものであった。

「おれ的には綾乃の気持ちはすごく嬉しい。そうしたいのは山々だ。けどな。

 ……おれの大切な綾乃を大切に育ててくれたご両親もじーさんばーさんもお兄さんの顔もおれは知らない。

 綾乃の生まれ育った故郷も、おれは知らない。
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