俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 最後の単語は、どうやら新妻の耳には届かなかったらしい。いつもなら冗談か軽口で返す彼女が反応せず、「……あ」と、拳を口に当てていた彼女が、その手を唇から離した。

 丈一郎の大好きな目が、彼を捉え、

「今日は、……二人の思い出の日、なんだよね」

「うん」と丈一郎は頷く。視線を下方にスライドする。いつ見ても潤っていてキスしたくなる唇が目前にある。

 丈一郎の邪な視線には気づかず、彼女は真顔を保ったまま、口を開いた。


「だったら、……その歴史を、逆から辿ってみたい」


 * * *


 東京都にある割りには、やたら校舎が大きく、その数が多い。

 大学の隣には、かつて丈一郎の通った高等部や中等部、小学校に幼稚舎まで隣接されており、尋ねるのが約十年ぶりであろうが、変わらず、その瀟洒な姿を披露していた。

 講義中の時間帯なのだろう。キャンパス内を闊歩する学生の姿はそれほど多くはない。ちなみに、今日は平日ではあるが、丈一郎と彼女は『この日』のために有休を取得した。時間外でも婚姻届の提出は可能だが、彼女とつきあい始めてちょうど一年が経つ本日。
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