声の王子様
自席に戻っても愛は先ほどのエレベーターのことばかり考えていた。

「愛ちゃん?」

急に声をかけられて驚き椅子から跳ねた。

「どうしたの?」

振り返ると桃子がいて、可笑しそうに笑っていた。

「すみません」
「何かあった?」
「ちょっとエレベーターで」
「何? どうしたの?」

今度は怪訝な表情になって心配そうな声を出したので愛は慌てて「違うんです! 良いことなんです!」と余計なことをつい口走ってしまった。
こうなると桃子に恥ずかしい趣味をランチで白状するはめになる。

「声優さんがいたってこと?」

入ったカフェでオムライスを口に運ぶのを止めて桃子が聞いた。

「たぶん。でもその人、顔も名前も出してないんで本人かはわからないんです」
「ゲームの収録なんてうちでやるかな? 番宣?」
「あ…そうか」

興奮して失念していたが、確かになんで、乙女ゲームの声優がテレビ局にいるのか不思議に思った。

「他の番組のナレーションとかですかね」
「ああ、なるほど。それはあるかもね」

(本当に本人なのだろうか。ただ声が似ている人なのかもしれない。核心は持てない)

「もしかしたら、ただ似てる人かも…あ、でも『俺の声に聞き覚えがあるの?』って聞かれたんですよ」

その時の声を思い出して顔がかぁっと熱くなった。

「ちょっと~? エレベーターで何されたのよww おフェイスが真っ赤っかよ」
「何もされてませんよ!」
「ところでなんてゲームなの? そんなに面白いなら私もやってみたいわ」
「え……」

愛はさらに顔を赤くして桃子は不思議そうにその表情を見た。
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