第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランの兄

王妃教育が始まって、まもなく3週間。
ようやく3日間の休暇が与えられた。

張りつめていた空気が、ほんの少しだけ緩む。
私はアリスと並んで、静かな回廊を歩いていた。

その時だった。

――視線を感じる。

胸の奥がひやりとする。
思わず顔を上げ、そして息を呑んだ。

「初めまして。君がティアナ嬢かな?
噂はかねがね聞いているよ」

柔らかな声。
けれど、その声音とは裏腹に、視線は鋭く、こちらを値踏みするようだった。

金色の髪は丁寧に整えられ、後ろで一括りにしている。
淡い茶色の瞳は、感情を巧みに隠している。

一瞬で理解する。
――この人は、“見抜く側”の人間だ。

「初めまして。
ティアナ・ラピスラズリと申します」

背筋を伸ばし、一礼する。
相手はわずかに口角を上げた。

「私はディランの兄だ。
アラン・アレキサンドライト。よろしく」

その名を聞いた瞬間、胸の奥がざわめいた。

ディランが以前、ぽつりと話してくれた人物。
7つ年上の兄。

学問、剣、政務――
何をさせても完璧で、
本来なら王となる器を持ちながら、

ただ“瞳の色が違う”
それだけの理由で王位継承から外された人。

そして――
ディランに向かって「可哀想だ」と言った人物。

目の前のアラン殿下は、穏やかな微笑みを浮かべている。
けれどその奥にあるものは、同情か、興味か、それとも――

まだ、測りかねていた。
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