第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「少し、話をしようか。弟がずいぶん君と親しくしているようだからな」

穏やかな口調。
けれどその声には、逃げ場を与えない圧があった。

――重い。

ディランの“感情の重さ”とは違う。
これは、理と経験で積み上げられた、静かで確かな重圧。

「……はい」

短く返事をし、正面に向き直る。

「悪いが、侍女は外してくれ。今日は二人で話がしたい」

その言葉に、アリスがわずかに身構えた。
さりげなく私の前に出ようとする気配が伝わり、胸が少し温かくなる。

私はそっと目で合図を送る。

――大丈夫。

アリスは頷いたのち、静かに一礼した。

「失礼いたします」

扉が閉まり、
室内には私とアラン殿下、二人きり。

静寂が落ちる。

だが、陛下と対峙したときのような、
背筋が凍るような恐怖はなかった。

代わりにあるのは、
逃げも誤魔化しも許されない、王族としての風格。

圧はある。
けれどそれは、暴力ではない。

積み重ねた思考と覚悟が、
空気そのものを重くしている――
そんな感覚だった。

私は無意識に、背筋を正していた。
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