第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「完全に目をつけられたね、お嬢様」

「……ほんとにね」

私はゆっくりと剣を下ろす。
テオも同じように刃を収めた。

砕けた魔宝獣の残滓が、風にさらわれて消えていく。
蒼と紅の残光だけが、まだ空気に揺れていた。

周囲を見渡すと、令嬢たちは青ざめ、声も出せずに震えている。
教育係は胸を押さえ、崩れ落ちそうな足を必死に支えていた。

ほどなくして、騎士たちが駆けつける。

――だが、遅い。

最初から、
“間に合うかどうか”など問題ではなかったのだろう。

ディランがいない、この絶妙なタイミングで。

上から感じていた視線は、いつの間にか消えていた。

……逃げたわね。

確認は済んだ。
あとは、どう扱うかを決めるだけ。

「ティアナ様……」

ミラが震える声で私の名を呼ぶ。

私は振り返り、静かに微笑んだ。

「大丈夫です。もう終わりましたから」

その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。



その日のうちに通達が出た。

――王妃教育、危険事案発生につき一時終了とする。

「一時」
そう書かれてはいたけれど。

これは事実上の、打ち切りだ。

私は分かっていた。
これは配慮でも、善意でもない。

“これ以上、表で動かれると困る”

そう告げられているのと同じだ。

テオが隣で肩をすくめる。

「ずいぶん早いお開きだね」

「ええ」

私は空を見上げた。

静かな青。
何事もなかったかのような、穏やかな午後。

けれど確実に――
盤上の駒は、動き始めている。

「さて……」

小さく息を吐く。

「次は、こちらの番かな」

遠く離れた屋敷にいる仲間たちの顔が浮かぶ。

――早く、帰ろう。

嵐はもう、始まっているのだから。



第4部 完
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