第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「完全に目をつけられたね、お嬢様」

「……ほんとにね」

私はゆっくりと剣を下ろす。
テオも同じように刃を収めた。

砕けた魔宝獣の残滓が、風にさらわれて消えていく。
蒼と紅の残光だけが、まだ空気に揺れていた。

周囲を見渡すと、令嬢たちは青ざめ、声も出せずに震えている。
教育係は胸を押さえ、崩れ落ちそうな足を必死に支えていた。

ほどなくして、騎士たちが駆けつける。

――だが、遅い。

最初から、
“間に合うかどうか”など問題ではなかったのだろう。

ディランがいない、この絶妙なタイミングで。

上から感じていた視線は、いつの間にか消えていた。

……逃げたわね。

確認は済んだ。
あとは、どう扱うかを決めるだけ。

「ティアナ様……」

ミラが震える声で私の名を呼ぶ。

私は振り返り、静かに微笑んだ。

「大丈夫です。もう終わりましたから」

その声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

◇

その日のうちに通達が出た。

――王妃教育、危険事案発生につき一時終了とする。

「一時」
そう書かれてはいたけれど。

これは事実上の、打ち切りだ。

私は分かっていた。
これは配慮でも、善意でもない。

“これ以上、表で動かれると困る”

そう告げられているのと同じだ。

テオが隣で肩をすくめる。

「ずいぶん早いお開きだね」

「ええ」

私は空を見上げた。

静かな青。
何事もなかったかのような、穏やかな午後。

けれど確実に――
盤上の駒は、動き始めている。

「さて……」

小さく息を吐く。

「次は、こちらの番かな」

遠く離れた屋敷にいる仲間たちの顔が浮かぶ。

――早く、帰ろう。

嵐はもう、始まっているのだから。



第4部 完
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