追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「いえ、仲が良いとかでは……私、田口さんの業務のサブにも入ってますし、ただそれだけです、本当です、あの」

 必死に言い訳を口に上らせながら、視線がくらくらと揺れる。

 その端に、ふと鵜ノ崎さんの口元が映り込んだ。
 あれ、と眉が寄る。緩んでいる。それも結構分かりやすく。
 咄嗟に、視線を上向ける。

「もしかして楽しんでますか?」
「なにが?」
「私が焦るさまを眺めて面白がっていらっしゃるのでは?」
「さすが柊木。俺のことはなんでも分かってる」

 最後の言葉に合わせて両腕がドアから離れ、圧迫感が一気に消える。
 茶化されたんだ、と気づいて脱力した。同時に、離れてくれて良かった、と心底安堵してしまう。

 少し前なら〝そうですよ、鵜ノ崎さんのことならなんでも知ってます〟くらい言い返せていたはずなのに、今の私はなにも言えなかった。
 さっきまでの鵜ノ崎さんの視線に、私は完全にやられている。

「なあ。昨日はなにしてた?」

 その場に立ったまま訊かれ、その声が甘い気がして、熱がぶり返しそうになる。
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