追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 デスク席に腰かける彼は、立って応対している私よりも下の位置から私を見つめているのに、私は見下ろされているような落ち着かない気分になる。

「困る、と言われましても……」

 またもごもごと口ごもってしまう。
 仕事中にこんな煮え切らない応対をするなんて、なんだか不甲斐ない。でもそれも、鵜ノ崎さんが含みたっぷりにきわどい物言いばかりしてくるせいだ。

「新調しよう。うちの父親と顔を合わせるって事前に分かってるんだ、揃えたほうがいい」
「で、ですが」

 たしなめるために零した言葉はうまく続かず、なにも言えなくなる。

 鵜ノ崎さんがどういうつもりでいるのか分からない。
 軽い調子で提案されたけれど、先日のクルーズデートのときにワンピースや靴、アクセサリーまで一式買い揃えてもらっている。それなのに、また私に新しいドレスを用意する気だとしたら、それは秘書の業務範囲からもビジネスパートナーからも逸脱している。

 あのクルーズデートを境に、鵜ノ崎さんは、私に対する態度をさらにエスカレートさせている。
 社長室はふたりきりになりやすい。現に今もそうだ。封筒を持ったままの手を指でなぞられ、私はあからさまなほどびくりと肩を震わせる。
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