追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「乾杯!」

 短い挨拶の後、高らかな声がマイクを通る。
 そこへ参加者たちの声もざわざわと重なり、いよいよ宴席がスタートした。会場内は途端に騒がしくなり、ピアノ曲のBGMが控えめに響く中、そこかしこで歓談が始まる。

 立食スタイルのパーティーは、和やかに進行していく。
 お父様は今日、主催側の代表として、常に人に囲まれるはずだ。会場を訪れるまでの移動中に、タイミングを見計らって声をかけよう、と相談していた。

 ただ、なかなか機を見計らえない。
 鵜ノ崎会長は、想定以上にあちらこちらから絶え間なく声をかけられている。

「もし立ち回りに困ったら合図してくれ、さっき教えたやつだ。できるな?」
「は、はい。背中を二回、手のひらで……ですよね、大丈夫です」
「ああ。離れるなよ」

 腰に触れる鵜ノ崎さんの手が熱い。
 本物の恋人みたいだ、と気を抜くとすぐ思ってしまいそうになる。

 そうした雑念が走るたびに自分を叱咤しながら、鵜ノ崎グループの関係者数名と紹介ややり取りを経て、おおよそ三十分。
 先に休憩を切り出してきたのは、鵜ノ崎さんだった。
< 114 / 238 >

この作品をシェア

pagetop