追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に溺愛されています
「飲み物をもらってくる。すぐ戻るからここにいろ、いいな?」
「はい。あの、すみません」
「気にしなくていい。楽にしてろ」

 ロビーのソファに私を座らせてから、鵜ノ崎さんは再び会場内へと戻っていく。
 おとなしく腰を下ろし、離れていく彼の背を見つめながら、私はそっと背もたれに身を委ねた。

 分かってはいたことだけれど、秘書として彼に並んでいるときとは明らかに勝手が違う。
 今日は誰も彼も、〝鵜ノ崎会長の息子のパートナー〟として私を見ていて、そのための観察眼を向けてくる。

 疲れる。秘書としての同席ではないからというより、偽の恋人として参席しているからこその疲れなのだと思う。
 私は、自分の今の立ち位置が〝嘘〟なのがつらい。だからこんなにも疲弊している。

 ふ、と息を吐き出してから、手持ち無沙汰な私はなんとなく視線を落とした。
 ドレスの裾が目に留まる。肩に垂らした巻き髪の毛先も、ほとんど同時に視界を掠めた。秘書として同席するときなら、簡単にはほどけないようギチギチにシニヨンにまとめているはずの髪だ。
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