追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「あは、そんなに固くならないでよぉ歩加ちゃん……ああ、柊木さん?って呼んだほうがいいんだっけ?」

 楽しげに問いかけてくる姫田さんにはあえて返事をせず、曖昧に笑い返すに留めた。
 下手に口を挟むのは得策ではない。なにより、このお互いの立ち位置は、私に十年前の公開処刑をちらつかせてやまなかった。

 私、またこういう状況でひどい目に遭わされるのでは。
 そう思わずにはいられない。今にも逃げ出したくなる衝動を堪え、きゅ、と唇を噛み締める。

「でもさぁ、あたしたちって元同僚じゃない? そんな他人行儀なのもどうなのって思っちゃうよねぇ、酒巻先輩はどうですか?」
「ああ。まあ、そうだな」

 饒舌に喋り続ける姫田さんのグラスの中身はお酒らしい。
 鮮やかな赤いドレスをまとう彼女を横目に、私は改めて隣の酒巻さんに焦点を合わせた。姫田さんへの相槌もそこそこに、いかにも私に話を切り出したそうな顔をしていたからだ。

 今さらなんの用なのか、考えるだけで気が重くなる。

(ゆき)()……いや、姫田から聞いたんだけど、柊木って今、鵜ノ崎先輩の会社に在籍してるんだってな」
「はい。それがなにか」
「ええと、では今日は鵜ノ崎代表とご一緒で?」
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