追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「てっきりあたしが嫌で辞めたのかと思ってたのに、そういうわけでもなかったんだね」

 心配して損したぁ、と口元を押さえた彼女と、とうとう視線がかち合った。
 微笑むために細めたらしき姫田さんの双眸には、むしろ敵意が滲んでいる。

 良いも悪いもないでしょ、と声を荒らげたくなる。
 あなたが嫌がらせの噂を流さなければ、あるいはせめて真面目に働いてくれていれば、私は急いで転職の準備なんてしなくて良かったのに、と。

 運が良かっただけだ。
 鵜ノ崎さんに拾ってもらったことも、恩師から鵜ノ崎さんの話を聞けたことも、全部。

 私の幸運や安定を、姫田さんは、いつだって遊びの延長みたいな顔で揺らがしてくる。

「あの、ちょっと黙っててくれ雪奈。なぁ歩加、頼むよ」
「……は?」
「今日が無理なら後日でもいいんだ、鵜ノ崎さんにアポ取れないか? 頼むよ、ほんとお願い」

 手を合わせて頼んでくる酒巻さんへ、私は虚無の気分で視線を向ける。
 口調も態度も急に馴れ馴れしくなった。姫田さんが私に攻撃的な物言いを始めたからか、焦っているのかもしれない。

 あからさまに嫌悪が表情に滲みかけた、その瞬間。

「歩加」

 耳慣れた声が背後から聞こえてきて、私は、弾かれたように声の主を振り返った。
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