追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 浮かれた声で大学時代のゼミやサークルについて喋り続ける姫田さんを、酒巻さんは『頼むぞお前に懸かってる』と言わんばかりの期待の顔で見つめている。

 緊張が最高潮に達した瞬間、鵜ノ崎さんが口元を押さえて深刻そうな声をあげた。

「姫田……もしかして、北加瀬産業社の方ですか?」

 懐かしの前職の社名を出され、私の心臓こそキリキリと痛み出す。

 一方の姫田さんは、目を見開いて「え?」と呟いたきりだ。それまでの浮かれたテンションも饒舌も忘れ、顔から表情を削ぎ落として呆然と佇んでいる。
 その隣で、話の内容についていけていないらしい酒巻さんが、ぽかんと口を開けて立ち尽くしている。

 鵜ノ崎さんだけが、どこまでも楽しそうだ。
 無論、眉尻を下げた深刻そうな表情を、顔に貼りつけたままではあるけれど。

「知り合いが北加瀬産業に在籍していまして、先日、ある告発に踏み切ったと聞きました」
「え……」
「上役を含む既婚者と女性社員の不貞行為が、とかなんとか……その社員も〝姫田〟という名前でしたから」

 既婚者。不貞。
 そのふたつの言葉を伏せなかったのは、きっとあえてだ。

 明らかに場の空気が変わった。
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