追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「で、お前はなんの用だって?」

 急に話を戻された酒巻さんの目は、再会してから一番泳いでいた。

「いえあの、自分、どっ、独立を、考えてまして、」
「それで口利きしてもらおうって? ていうかよく柊木に声かけられたな、どういう神経してんのお前」

 姫田さんが立っていた場所へ踏み込み、鵜ノ崎さんは酒巻さんの耳の傍で毒を吐く。
 あ、呼び方が〝柊木〟に戻ったな、とどこか他人事めいた感想が浮かんだ。

 周囲がざわめいている。
 姫田さんと鵜ノ崎さんのやり取りにこっそりと耳を傾けていた人も結構いそうだ。鵜ノ崎さんの声は今、その人たちには聞こえないくらいには抑えられていて、けれど私の耳にははっきり届いた。

「柊木はお前たちを許すかもしれない、優しいからな。でも俺は許さない」
「あっ……お、俺は、その」
「話は終わりだ。あの尻軽女、さっさと追いかけたらどうだ」

 話の内容とは裏腹に、鵜ノ崎さんは最後ににっこりと酒巻さんへ微笑みかけた。
 一方の酒巻さんは、姫田さんが逃げ去った方向を見ては鵜ノ崎さんを見て、の繰り返しだ。彼の足は一向に動かない。

「どうしたんださっきの人?」
「ねぇ、北加瀬……ってもしかして週刊誌に載ってた、あの?」
「ああ、私も見ましたよそのニュース」

 ざわざわざわざわ、さざめきが耳に痛い。
< 131 / 254 >

この作品をシェア

pagetop