追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 お酒にしろ空気にしろ、酔っているときの私は碌なことをしない。
 そうと分かっていても、どうしても鵜ノ崎さんの手を放せない。

 アパートの共有玄関をくぐり、階段を上って二階の部屋の前に辿り着くまでの間、私が掴んでいたはずの手にきつく掴み返されていたことにはもちろん気づいていた。
 タクシーに乗っていた間と同じだ。現実と非現実の境目が曖昧になった感覚に揺られながら、私は玄関の鍵を開けて、そして。

 ドアを開いたときの、ガチャ、という音が耳を掠めたと同時に腕を引っ張られ、足がもつれた。

「柊木」

 低い声が耳を掠め、息が止まる。
 閉まったドアに背を押しつけられ、なにが起きたのか一瞬理解できなくて、は、と細く息を零してからやっと気づいた。

 鵜ノ崎さんの両腕が、背をドアにくっつけた私の、顔の両脇を囲んでいる。

 これ、この間もされたかも、と喉が鳴る。
 数日前に社長室でもされた。あのときは、冗談だとばかりにあっさり解放された。
 けれど、今は。

「前にも言った。俺も男だから、油断するなって」
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