追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています

《2》

 ドアに両腕をついて逃げ場を奪う。
 動かない柊木を見下ろしながら鍵をかけた。ガチャ、と妙に大きな音を立てて鳴る、その音に柊木がびくりと身を竦めたように見えた。

 どうして今夜、柊木は俺を部屋に入れてくれたんだろう。

 ロビーに戻り、姫田が柊木を追い詰めていると理解してすぐ、あの女を人目につく場所で吊るし上げると決めた。
 一切後悔していないし、失敗したとも思っていない。

 だが、酒巻に啖呵を切ったときにはもう駄目だった。
 苛々して平静を保てなくて、おかしいと分かっていても止められなくて、なんなんだこれ、とまた苛々して……あれ以上はあの場に留まっていられそうになかった。

 誰もいない場所で、柊木からさえ距離を取って頭を冷やしたかったのに、本当に思い通りにならない。

 この玄関が明るくなくて良かった。
 今の自分は、おそらく相当に格好のつかない顔を晒している。

「駄目だな。あれじゃあ完全に俺の自己満足だ」

 玄関に立ったきり、華奢な身体を抱き寄せる。
 微かに鼻腔を擽った髪の匂いが甘く、くらりと眩暈がした。
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