追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 なんなんだ、この感情。
 こういう恋は一から十まで初めてで、なにもかもが理解の範疇を超えている。

「じゃあお礼して」
「嘘……この状況でお礼をせびるんですか、私に?」
「恩着せがましいのは分かってるが着せられる恩は貪欲に着せていきたい」
「正直すぎますって」

 口をついて出たしょうもない頼みごとに、柊木は笑い交じりに返してくる。
 その声にこそ安堵した。人生で初めての恋に溺れて狂っておかしくなっている俺のことなんか、ひと息に笑い飛ばしてほしくなる。

 さっきまで暗くて良かったと思っていたのに、今度は明かりが欲しくなった。
 暗いままでは、勢いに任せて抱き締める以上のことをしでかしてしまいそうだ。

「ええと、電気、つけますね」

 その声を聞いて心底ほっとした。
 やっぱり、柊木はきちんと俺を分かってくれている。だが、もし今の内心まで読まれていたらどうする……明るくなった玄関で、そんな不安にも駆られる。

 本当にどういう感情なんだろう、これは。
 話に柊木が絡んだ途端、俺はいつもこうなってしまう。

「お礼はどうしましょうか。鵜ノ崎さんはなんだったら嬉しいですか?」
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