追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「そうだな。じゃあ今夜、泊めて」

 告げるや否や、びくりと固まって動かなくなった柊木から、目は逸らさなかった。
 前の俺だったらそろそろ「冗談だ」と告げている。でも言わない。俺はもう、柊木を追うことに遠慮をしない。

「……私」

 揃って立ち尽くしたきりでの沈黙に耐えきれなくなったのか、柊木の掠れた声が静寂を破る。

「これは、姫田さんたちには関係のない、単に私個人のトラウマの話なんですが」
「うん」
「好きになったら、私、その人のことを追いかけたくなるんです。絶対」
「うん。それで?」

 言葉の最後に伏せられた彼女の目を、性懲りもなく凝視する。

「そうなるのが、怖い、です」

 細い呟きが、耳に深く残る。
 柊木は鈍くない。今の自分は彼女から、鈍いと思われるような考え方をしなければならなかった、その理由の話をされている。やっと打ち明けてもらえている。

「それって俺に対する感情?」
「……そうです」

 唇を噛み締めて答える柊木の髪をそっと撫でる。
 柊木は、俺の手を振り払おうとはしなかった。
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