追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 自分で自分をたしなめたくなる。『泊めて』という言葉が冗談だったことを残念に感じる、この心はなんなのか。

『もう追うことに決めた』

 鵜ノ崎さんが追ってくるから仕方ない。私はただ追われているだけ。
 そう言い訳するしかない。私はもう、鵜ノ崎さんがとっくに好きだからだ。

『歩加にも随分ひどい嫌がらせをして退職に追い込んだそうだな』
『柊木はお前たちを許すかもしれない、優しいからな。でも俺は許さない』

 姫田さんと酒巻さんの、困惑まみれの顔を順に思い出し、息が震える。
 私のために、本人たちを前に真っ向からああいう言葉を口にしてくれた人は、今までひとりだっていなかった。

 恋に落ちない理由がない。しかも、鵜ノ崎さんも私を好きだと言ってくれている。
 あんなに何度も口づけを交わして、今もまだ唇に感触が残っているような錯覚すらある。

 けれど、私が自分から想いを告げることはできない。
 私にとって、恋とは相手を追うことだ。それだけは避けなければならない。疎まれて嫌われることへの恐怖と不安は、今も私を支配してやまない。

 だったら、伝えずにいるうちは、なんとか追わずに済むのでは。
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