追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 着信音も、一緒に設定しているバイブ音と振動も、鳴り始めから時間が経っているわりにちっとも止まらない。
 母からの電話は毎回こうだ。私が応じるまで、一分程度なら余裕で待ち続ける。

 仕方なく、私は通話ボタンをタップして応じた。

「もしもし」
『ああ、歩加?』
「久しぶり。ごめん、すぐ出られなくて」
『いいのいいの。ええとね、お米とかまた送ろうかなって……そろそろなくなる頃じゃない?』
「あ、うん。ありがと、助かる」

 実家は農家ではないものの、母の実家が田んぼを持っている。
 そこから身内価格で譲ってもらう分を、母は、地元に残っていない私にもお裾分けしてくれる。

 ただ、私がこの恩恵に(あずか)る代わりに、母は必ずある話題を提示してくる。
 多分、今回も例外ではない。

『最近どう? 仕事、大変じゃない? 無理はしてない?』
「うん。大丈夫」
『ならいいんだけど』

 母の訊き方はいつもこうだ。
 無理をしていないか、つらくはないか、嫌な思いはしていないか――〝仕事イコール苦痛〟という前提で訊いてくる。
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