追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
『けど珍しいじゃん、歩加がそういうのはっきり断るなんてさぁ』
「珍しいかな」
『まぁね。でも全然いいことだし、そのままでいいよぉ~』

 母に対してもう少し言い方があったのではないか、と自分でもくよくよ考えていたところだったから、姉のおっとりした肯定がなおさら心にしみた。

『最近どう? 仕事、楽しんでる?』

 母と似た声で母とは違う質問をされ、きゅ、と喉の奥が締めつけられる。
 こういう訊き方をしてくれるのは、家族の中ではもう姉だけだ。祖母もよく楽しいかどうかを訊いてくれる人だった。

 優しい声だ。
 亡き祖母にも、よく似ている。

「うん。楽しい、すごく」
『良かったじゃ~ん。転職して正解だったね本当、あのときもお母さんが大騒ぎだったんだよね~』

 そうだった。
 あれから二年半あまりが過ぎたと思うと感慨深い。

 大学を出て、地元にも支社のある北加瀬産業社に就職したとき、母は心から喜んでくれた。
 だからこそ退職を伝えたときは落胆された。しかも、『辞めるのにこっちに帰ってくる気もないなんて』としつこく小言を言われた記憶が蘇る。

 あのときも、姉が間に入って私を助けてくれた。
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