追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「して、ないです。油断なんか」

 強引に腰を抱く腕に指を添え、自分からも広い背中に腕を巻きつける。
 びく、と小さく背が跳ねた、その感触が伝わってくる。

 鵜ノ崎さんには好きだと言わせておいて、自分は返事を濁したまま思わせぶりな態度ばかり取っているのは、やはり良くない。
 私は、私の本当の気持ちを、この人に伝えなければならない。

 今がその最良のタイミングなのだと思う。でも。

「ごめんなさい。私、まだ、好きって言えない……んですけど」

 続きが口を滑ってくれない。〝けど〟に続けなければならない、肝心な〝好きなんです〟がどうしても言えない。

 同時に、勢い良く頬に熱が溜まり始める。
 言っていることがめちゃくちゃだ。〝まだ好きだと言えないけれど〟だなんて、もう好きだと言っているようなものなのに。

 鵜ノ崎さんも同じことを考えているらしかった。
 ふふ、と吐息だけで笑う声が耳を擽り、けれど彼は私の矛盾をわざわざ追及してこなかった。

「いいよ。無理すんな」

 顎を持ち上げられ、ゆっくりと唇を近づけられる。
 見つめ返せない私を、鵜ノ崎さんはまっすぐに視線で射抜いて、そして。
< 176 / 254 >

この作品をシェア

pagetop