追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 ちり、と胸が軋んだ。
 この子はこれが怖かったのだと思う。好きになって追いかけて捕まえた相手に、心を許した途端に飽きられる――そういうことを恐れている。

 柊木がそんな目に遭ってきたのは、決して柊木のせいではない。
 相手の男がどいつもこいつもカスだっただけだ。

 悪いが、俺はカスではない。
 歴代のカス彼氏どもと横一列に並べられては困る。

「結婚に夢を見てるって話、しただろ。前に」
「あ……はい。クルーズ船に乗ったときですよね」

 髪を撫でつつ切り出すと、柊木は気持ち良さそうに目を細めて返事をしてくる。
 可愛い。少し眠そうに見えるのも可愛い。もう〝可愛い〟以外の感想を抱けない。

 こんなに可愛い柊木を、今夜とうとう抱いてしまった。
 ときには勝手に傷つき、ときには勝手に感情をこじらせながら、二年も一方的に想いを寄せてきた人を。

 ついさっきまで理性を飛ばしてめちゃくちゃに抱いておいて、これほど現実味を感じていないなんて、とんだ碌でなしに成り下がった気分だ。

「添い遂げたいって思える人に会ったこと、なかったんだ。今までずっと」

 ひときわ目を細めた柊木と視線がかち合う。
 事後、穏やかな眠気に誘われながらふたりで寝そべって交わす話は、どこか内緒話めいている。ふたりだけの秘密を共有している最中のような高揚がある。
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