追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 バイブ音が聞こえなくなるよう、さらにキスを深くする。
 頬に手を添えるふりをして、指で彼女の耳を塞ぎ、抱き締める腕にも一層力を込めた。この程度でごまかせる気はまったくしないが、他の手段が浮かばない。

 どうかしている。
 本気の恋に呑まれたせいで、明らかに頭が馬鹿になっている。

 電話は、見合いを断った鈴ヶ嶺家の孫娘からだ。
 縁談に積極的だった鈴ヶ嶺都議夫妻ではなく、孫娘本人。

 実家が懇意にしているのは鈴ヶ嶺都議の奥方だ。
 奥方が溺愛する孫娘への扱い次第では、実家に迷惑がかかるかもしれない。そう思えば強い言葉を使って拒むのも憚られ、どうしたものかと頭をひねっているうち、たびたび直接連絡が入るようになった。

 ――都議の孫、鈴ヶ嶺麗未(れみ)

 今、注目を浴びているモデルだ。
 名家としてのプライドが云々(うんぬん)というよりは、芸能界で脚光を浴びている自分と会いすらしないうちから見合いを断られたのがつまらないのだと思われる。

 メッセージアプリのアイコンに設定された顔貌を見るだけで気が滅入る。
 プライベート用らしきアプリのアイコンは、仕事中の派手な外見とは違い、妙に奥ゆかしい風貌だ。そのせいか妙に柊木に似て見えて、とにかく癪に障る。
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