追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 俺は柊木の外見だけに惹かれているわけではない。
 柊木の全部が好きだ。だから、たとえ似た女に言い寄られても関係ない。俺を動かせるのは柊木だけだ。

 しばらく鳴り続いた後、バイブ音はやがて途絶えた。
 ほっとしつつも、胸に落ちた影はなかなか消えない。好きでもない相手に追いかけられるのは、これほどまでに苦痛だっただろうか。追いかけ続けてきた人とやっと向き合えた今、どうしても煩わしく感じる。

 さっさと片をつけなければならない。
 孫本人よりも彼女の家族へ話を通したほうが、より早く済むだろう。だが。

 じりじりと、胸の奥が焦げついて痛む。
 鈴ヶ嶺の孫は、会う前から見合いを断られたのが気に食わなくて俺に執着している――それは果たして本当なのか。

 違う気がする。

 言い表せない違和感がずっとつきまとっている。
 あの女は俺に執着しているわけではない、そんな気がしてならない。

 なんにしても、柊木を巻き込みたくない。
 柊木の目に留まらせるよりも先に、早々に片をつけてみせる。絶対に。
 苦い気分を持て余しながら、唇が触れては離れるたび揺れる艶やかな黒髪に指を絡めた。
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