追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
『もう何回も言ってんのに』

 その通りだ。あれは油断ではなかった。
 鵜ノ崎さんが気づいていないとは思えない。その証拠に、彼の口元は大いに緩んでいた。分かっていてやっている。お互いに。

 このマンションには私の歯ブラシがある。
 鵜ノ崎さんのテリトリーであるこの部屋に、私の居場所はすでに形作られつつある。

 少々強引なキスを落とされ、ああ、今夜もきっと足腰が立たなくなるまでキスをされて、とろとろにされてから食べられてしまうんだ、と思う。
 こんなふうになし崩し的に一夜を過ごすのも、もう四度目だ。

 ――ああ、私って、本当に狡い。

 好きだと伝えなくても好きだと分かってもらえているから、言わないままで甘えている。
 鵜ノ崎さんが望んでいるだろう言葉を伝えられずじまいで、今日もまた夜が更けていく。

 受け取ってばかりの私は、あなたに、まだなにも渡せていない。
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