追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
     *


 愛を注がれた身体は、まだ甘く蕩けたきりだ。
 心地好い怠さに包まれ、うまく力が入らない。自室のシングルベッドとは比較にならない質の良いマットレスの寝心地は好く、それでいて、事後の気怠さに揺蕩(たゆた)っている私は眠気を感じるには至っていない。

 さっきの電話が気になって仕方なかった。

 それに、鵜ノ崎さんは明日――金曜に有給休暇を取得している。
 ご実家の都合で、土曜にかけて泊まりがけで京都に行くとは聞いているけれど、私はそれ以上の詳細を知らない。秘書として一緒に働き始めて二年半、彼がそうした理由で有休を取る例は今までなかった分、ますます気に懸かってしまう。

 恋人でもなんでもないくせに図々しいかも、と苦い気分になる。
 こうして肌を許せていても、私は〝好き〟という気持ちをいまだに言葉にできていない。本当にどうかしている。

「あの。明日、なんですけど」

 緊張とともに切り出すと、腕枕をしながら髪を撫でてくれていた鵜ノ崎さんの指がひたりと動きを止めた。

「ええと、気をつけて、行ってきてくださいね」

 結局は怖気づいて、訊きたいことは訊けないままになる。
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