追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「はい、柊木(ひいらぎ)です」
『お疲れ様。()()(さき)です』

 この二年半ですっかり聞き慣れたビジネスパートナーの声を聞きながら、仕事モードのまま、私は深く安堵を噛み締める。

『夜分に悪いな。明日の会議について確認が……あぁ、通話って大丈夫か今?』
「お気遣いありがとうございます、大丈夫です。それで会議の件というのは?」

 退勤後に仕事の電話がかかってきたら、普通は憂鬱になると思う。けれど私は違う。
 彼からたびたびかかってくる夜の電話を、私は好ましく感じている。そこに恋愛感情は含まれていない。

 気が滅入りやすい夜の私を一瞬で仕事モードに引き戻してくれる、そして私に仕事のことだけを考えさせてくれる――それが好ましさのすべてだ。

 長く苦しい夜を、沈まず潜り抜けるために、私は仕事に依存している。
 いっそ朝も昼も夜も常にこのモードで生きていけないかなぁと願う程度には、今の私は完璧な仕事人間を目指して生きている。

 柊木(あゆ)()、二十八歳独身、コードネストコーポレーション社員、秘書職。
 恋なんか二度としたくない。昔の失敗の記憶を殺すためだけに、寝ている時間以外ぶっ通しで仕事のことを考えていたい。

 ある意味では充実した生活を満喫している、仕事中毒女だ。
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