追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 職場へ到着し、業務に着手し始めてからも、強く意識していないとうっかり溜息が零れそうになる。

 駅での一件を振り返る。
 あの後、なぜかスマホを勝手に振られ、私とあの美女の連絡先は交換されてしまった。

『また連絡しますね。あたしも、アユカさんからの連絡ならすぐ確認しますし』

 語尾にハートマークがついているとしか思えない、弾んだ声だった。そうした些細な部分が、姫田さんの計画的な所作を連想させてやまない。
 知らないうちにあんな動画を撮られていたとは、本当に迂闊だった。これだから飲酒はいけない。もうこりごりだ、今後はしばらく控えよう、と心から決意する。

 いやそんなことよりも、と頭を抱える。

 彼女が鵜ノ崎さんを狙っているとしたら、私を排除したがるはずだ。
 だとすると、朝のあの態度には違和感が残る。排除したいわりには親密すぎる。わざわざ連絡先まで交換して……正直、相手の意図するところが分からない。

 姫田さんの猫撫で声には悪意があった。けれど、あの女性の声や態度からはそういう感情を汲み取れなかった。
 自負というほどでもないけれど、姫田さんの影響で、私は同性からの悪意には特に敏感だ。

 となると、やはりなにかがおかしい。
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