追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 田口さんの興奮気味の声を、相槌とともに聞き流すだけで精一杯だ。
 レミのインスタのアイコンは、メッセージアプリに使われているものとは別の、ひと目でモデルだと分かる写真だった。

 フォロワー数は百万人を超えていて、ぞわりと背筋が粟立った。
 そんな〝超〟がつくほどの有名人から、朝、自分はあんなふうに声をかけられたのか。今さらながら冷や汗が流れる。

 まずい。
 こんなに注目されているアカウントであの動画を投稿されたら、途端にすさまじいスピードで拡散されてしまう。

『あたし、ってことにしてほしいんです』

 朝のレミの声が蘇る。
 今まさに耳の横で囁かれているように、鮮明に。

 レミは鵜ノ崎さんとの関係を取り戻したがっているのかもしれない。
 けれど、それにしては奇妙だ。縁談が白紙になったからといって取る言動にしては、やはり遠回しすぎる。あのレミが、私みたいな一般人にわざわざなりすましたがっているなんて。

 それに、レミが追いかけてきたのは、鵜ノ崎さん本人ではなく私だ。

 おかしい。
 彼女と、もう一度話さなければ。

 なおも喋り続ける田口さんへ相槌を挟みつつ、私はひっそりと胸の内で覚悟を決めた。
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