追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 チェーンのカフェとは違い、店内はレトロな雰囲気に満ちている。
 客は他にひとりもいない。名前を伝えたらスタッフが丁寧に迎えてくれ、場違いを気にしながらホットコーヒーを頼んで……一般客が気軽に入れるお店ではないのかもしれない。狐につままれたような状況のせいか、胃がきりきりと痛み出す。

 この周辺には滅多に足を運ばない。土地勘のなさも手伝い、自分のすべての行動が挙動不審になっていそうで落ち着かなかった。

 レミのような有名人が、本当にわざわざ足を運んでくれるのか。
 不安が拭えない。けれど、この待ち合わせ場所と時間を指定してきたのは他ならぬレミ本人だ。

 やはりレミは、元々私を知っている。
 でなければこんな危ない橋は渡らないはずだ。見知らぬ相手と待ち合わせするなんて、彼女の仕事や立場を考えるならあり得ない。

 きゅ、膝の上で拳を握り締めたそのとき、スマホがぶるぶると震え始めた。
 反射でびくりと背が震える。

『もうすぐ着きます』

 届いたメッセージは端的な文章のみで、華やかなレミのイメージには近くなかった。
 プライベート用として使っているのだろう彼女のメッセージアプリのアカウントからは、インスタなどで発信しているようなきらびやかな雰囲気がほとんど感じ取れない。
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