追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「えっ?」

 思わず声が零れた。
 とんでもない現場を見られている。

 記憶には残っていないけれど、三期下のレミさんが入学したての頃なら、当時の私は大学四年生。
 言われてみれば確かにその頃、何人かの男の人に告白されては断って、というできごとがあった気はする。

「それからずっと憧れてました。あたし、それまでは人の顔色を窺ってばっかりで……誰かの機嫌を損ねるのが怖くて、人付き合い自体が苦手だったんですよ」

 喋るレミさんの表情が、物憂げに歪む。

「人の顔、正面からきちんと見るのも駄目で、特に男の人……馴れ馴れしく声をかけてくるタイプの人、本当に無理だった。無理なのに、おどおどして相手の機嫌を取るしかできなくて」
「……レミさん」
「ずっと悩んでたんです、あたし一生このままなのかなって。そんなときにアユカさんを見かけて、〝あたしもあの人みたいになりたい〟って生まれて初めて思えたの」

 言葉尻をわずかに崩したレミさんの表情は、私の目にはうっとりとして見えた。
 自ら声をかける勇気も、私から声をかけられる奇跡も起きず、結局その後も接点はなかったけれど、外見だけでも寄せられないかとイメチェンしたそうだ。
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