追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 形から入るのは、存外、人に勇気を与えるやり方なのかもしれない。
 言いたいことを少しずつ言えるようになって、人の顔を見て話ができるようにもなったレミさんは、私が大学を卒業した後、今所属している芸能プロダクションからモデルにスカウトされたという。

「実家について明かしたの、デビューして結構経ってからなんです。キャラ立てっていうか、〝派手なのに実は生粋のお嬢様〟ってギャップで売り出そうって。運もあったでしょうけど、まぁうまくハマってくれたみたいです」
「……そうですか」
「でも結局それはそれ、なんですよね。結婚に関しては、仕事とは別にきちんと考えなきゃって思ってました」

 結婚。その言葉が耳に刺さる。
 私の生きる世界とは遠く離れた場所で起きているレミさんの日常から、地続きの現実に、一気に引きずり込まれた感覚があった。

「祖母が鵜ノ崎家と懇意なんです。戦前から付き合いがあるそうで」

 レミさんのお祖母さんは、たびたび鵜ノ崎家へ『下の息子さんとうちの孫を』と縁談を持ちかけていた。ところが都度、実家からの独立を理由に、あるいは起業した会社の経営や多忙を理由に断られてきたそうだ。
 お祖母さんが、他に相手がいるならまだしも、と少々強く交渉に出たのがひと月ほど前だという。
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