追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 誰にも相談できないまま、ひとりで勝手に苦しんで、ひとりで勝手に転職活動を始めて、たまたま紹介を受けて次の仕事が決まったから退職を選んだ。それだけの話。

「いえ、本当に大したことじゃないんです」

 真相は言えない。さすがに重すぎる。
 結局、私は話を濁そうと決めた。

「今こうやって鵜ノ崎さんと一緒に働けて、私、あの頃よりもずうっと幸せですし」

 詳細を伝えられなくて申し訳ないなと思いつつも、笑って話を閉じたかった。だからわざと口角を上げた。
 あは、と声に出して笑った私を、鵜ノ崎さんがどんな顔で見ているのか知りたくなくて、私はわざと彼から目を逸らした。

 ……当時の事情を、いつかは笑って誰かに打ち明けられたら。

 昨日もそんな期待を抱いた。でも、思った以上にうまく笑えない。
 当時の傷は私の中でまだ癒えていない。もしかしたらこの先も、完全に癒える日はこないのかもしれない。

 私は仕事が好きだ。
 悩みも不安もなにも考えられなくなるくらい、常に忙しく動き回っていたい。頭を回し続けていたい。仕事は、絶対に私を裏切らないからだ。
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