追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「ん……っ」

 ガチャン、とドアが閉まるよりも早く唇を貪られた。
 強引だ。最初から深いキスを降らされ、強制的に蕩けさせられながら、濃厚さと、その影に隠れた湿度の高い感情を一緒くたに感じ取る。

 彼が後ろ手にドアの鍵をかけた、その細い金属音が妙に耳に残った。
 いつもは私の反応を見て口づけてくれるのに、今夜の鵜ノ崎さんはそうしてくれない。多分、さっき私がうっかりレミさんにキスされかけたからだ。

 キスのさなかに薄く瞼を開くと、私を見つめたきりでキスを続ける鵜ノ崎さんと目が合った。
 最初から目を閉じずに見つめてくれていたのかもしれない。そう思うだけで、身体の芯に甘い刺激が走って、それ以上まっすぐ立っていられそうになくなる。

 嫉妬に濡れた彼の瞳はどこか私を責めるようで、申し訳なさを覚えるよりも先にぞくぞくと背筋が震えた。
 眩暈がする。与えられるばかりではなく私からも返したいのに、息もつけないほどの口づけに翻弄されているせいで、反応ひとつままならない。

 レミさんに詰め寄られたとき、鵜ノ崎さんを悪く言われたとき、彼女の言い分に真っ向からノーを突きつけたとき――どのときも、私はひたすら緊張に全身を支配されていた。
 鵜ノ崎さんが来てくれて腕を引かれた瞬間の安堵を思い返すと、途端にまた、あのときのように膝が崩れてしまいそうになる。
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