追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 ゆっくりと離れていく唇と私の唇の間に、細い銀糸が伝う。
 涙目になりながら、私は浅く呼吸を繰り返す。

「嫌なことはされなかったか?」

 低い声で尋ねられ、ぶんぶんと首を横に振る。

「されてはないです。けど、言われました」
「言われた? なんて?」
「鵜ノ崎さんのこと、諦めてって。でも」

 レミさんが実は大学の後輩だったとか、私に執着して外見の模倣をしていたらしいとか、伝えたい話はいろいろあった。
 それなのに喉は異様に震えてしまうし、頭の中もめちゃくちゃで、正しく伝えられる気はしなかった。

 今、私がこの人に確実に伝えたいのは、たったひとつだけ。

「断りました。私、誰になにを言われても諦めませんって、ちゃんと言えました」

 私を見つめ返す鵜ノ崎さんが、大きく目を見開いている。
 驚いたような顔だ。確かに驚くだろうな、とその顔を見ながら思う。

 今だ。
 今言えなかったら、私はきっと、もう一生言えずじまいになる。
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