追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に溺愛されています
「ほら見ろ。横になってていいから」
「う、うう」

 返事になっていない呻きをあげた私の頭をぽんと撫でた後、ベッドから起き上がった鵜ノ崎さんは軽やかにドアへ向かっていく。
 その背を見ながら、鵜ノ崎さんはちゃんと服を着てるな、と思う。一方の私はといえば、昨晩、もうぴくりとも動けずくたくたの状態で彼のシャツを着せてもらった、その格好のままだ。羞恥が再燃してしまう。

 彼が部屋を出てしばらくすると、ふわ、とほのかにいい匂いが漂ってきた。
 焼けたパンの匂いだ。嗅いだ途端にお腹が鳴った。かなり大きな音だった。聞かれなくて良かったな、と心底ほっとする。

 手伝えなくて申し訳ないなとそわそわしていると、やがて鵜ノ崎さんが再び寝室に顔を出した。

「できたぞ。起きられそう? 持ってきて食わせてやろうか」
「起きっ、起きます大丈夫です」

 さすがにそんなことはさせられない。
 慌てて返事をしてから、腰に力を入れて起き上がる。

 まだ膝が笑っていたけれどなんとか立てた。
 産まれたての子鹿か、と自分にツッコミを入れながらも、鵜ノ崎さんに手を取られつつ寝室を出てダイニングまで移動する。
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