追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 私がなにを見ているのか、運転席の彼にはすべてお見通しらしい。
 湿度の高い質問だな、と緊張を覚えつつ、私は慌てて鵜ノ崎さんに弁明する。

「ないですないです、連絡先もブロックされてますし」
「じゃあなんでそんなの見てるんだ、それあいつのインスタだろ」
「それはその、田口さんがファンらしくて、よくお話しになるので」
「田口かよ……」

 正直に答えると、げんなりとした相槌が返ってきた。
 お喋りで有名な田口さんの名前を出したことで、どうやら一定の納得は得られたみたいだ。思わず笑いそうになる。

 先日の昼休憩中、田口さんが『これはこれでかなり良い……ッ』とレミさんのインスタを噛み締めるようにして見ていた、そのさまが脳裏をよぎる。思い出し笑いが止まらなくなりそうだ。

「ていうか歩加、一時期田口にも狙われてなかったか。昼とかいっつも誘われてたよな」
「へェっ?」

 素っ頓狂な声が漏れた。
 思い出し笑いを堪えていた私とは対照的に、鵜ノ崎さんの質問の声はどんどん湿度が上がっていく。そんな問いが続くとは思っていなくて、返答に迷う。

 さて、今度はどう弁明しようかな、と頭をひねる。
 苦ではない。私は私で、このじっとりとした湿度すらも愛おしく感じているのだから大概なのだと思う。
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