追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 恋という感情は、ときに人を馬鹿にする。
 それはきっと事実で、けれど私は、過去を通して今の自分が一番好きだ。

「ええと、あれは狙うとかじゃなくて、単に喋りやすいからってだけですよ。田口さん、私が自分と同い齢だから変に気負いしないで済むんですって」
「ふん、どうだか」
「あぁあぁ、()ねないでくださいよ可愛いなもう」
「拗ねてねえし可愛くもねえ」

 考えていたことがついそのまま言葉に出てしまって、ふたりで声をあげて笑い合う。

 車はやがてトンネルを抜けた。
 その先はまばゆいばかりの日の光に満ちていて、私は堪らず目を細める。眼下には、太陽に照らされてターコイズブルーに輝くダムの水面が見えた。目的地にだいぶ近づいている。

 今日は、結婚の挨拶のために、ふたりで私の実家へ向かっている。

「鵜ノ……統弥さんだって知ってますよね。好きな人を追いかけてるとき、私、他の人のことなんか全然見えなくなるんですけど」
「知ってる知ってる、知ってはいるんだけども」

 溜息交じりに伝えると、焦りを滲ませた声が返る。
 普段は職場でやらかしてしまわないように名字で呼び合っているのだけれど、今日は挨拶もある手前、道中から名前で呼び合っておこうと決めていた。
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