独占欲に火がついた御曹司が溺愛猛追で鉄壁ガードを崩してきます
「お母さんはね」

 ふう、と母の溜息が聞こえてきて、私ははっと我に返る。

「〝仕事〟って聞くとどうしても〝苦痛を伴うもの〟っていうイメージが湧いちゃってねぇ。だから歩加も無理して働いてるんだって決めつけちゃってた」

 ……だろうな、と思う。
 お見合いを断るよりも前の母の言葉には、事実、そういうニュアンスが節々に滲み出ていた。

「そりゃあ私だって、働いてれば嫌なことなんか普通にあるよ。失敗も少ないわけじゃないし、でも」

 言葉を区切り、鏡へ向き直る。

「でも私、今の仕事も職場も、やっぱり大好きだから」
「……そう」

 そうよね、と気が抜けたみたいに母が笑う。
 黒留袖姿の今日の母は、なんだか普段よりも小さく見える。くんと喉の奥が鈍く痛み、それをごまかすようにして、私は鏡越しのドレスへちらりと視線を向けた。

 ウエディングドレスには、教会のバージンロードに映えるロングトレーンの一着を選んだ。
 マーメイドラインの、艶やかながらも派手すぎないシルエットにひと目惚れして、ほとんど即決だった。裾に向かって広がる繊細なレースを視線でゆっくりと辿り、幸せだな、と頬が緩む。
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