追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 口元だけがほのかに笑んでいる。
 身支度はすでに済んでいるらしい。スーツに身を包んだ彼を前に、私はといえば寝起きの、それも汚く寝乱れた姿だ。

 昨晩に引き続き、失態が過ぎる。

「なん、で、鵜ノ崎さんが、」

 喋るために動かした喉が妙に涼しい気がして、私ははっと視線を下ろした。
 着ているものは昨日と同じだ。ただ、シャツのボタンは三つ目まで外れていた。下着が見えるほど肌が露出していて、堪らずシャツの合わせ目を手繰り寄せる。

 今の自分の顔からは、相当に血の気が引いているに違いなかった。
 焦る私を横目に、鵜ノ崎さんはおもむろに椅子から立ち上がった。そして、びくりと身構えた私の傍へと、一歩、また一歩と歩み寄りながら、私から目を逸らすことなく問いかけてくる。

「記憶は?」
「は?」
「昨日の夜の話だ。どこまで記憶に残ってる?」

 すぐには返事ができず、私たちの間には沈黙が舞い降りる。重い沈黙だった。
 ベッドの上で上半身を起こした私の隣へ、鵜ノ崎さんは並ぶように腰を下ろしてくる。咄嗟に腰を浮かせ、私は横に移動して距離を取った。けれどまた、離れた分だけ距離を詰められ、私はあっさりとベッドの端に追い詰められてしまう。
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