追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 これ以上はよけられない。観念した私は動きを止め、深く俯いた。
 鵜ノ崎さんは黙ったきりだ。私から答えを聞くまで、もう自分からは喋らないつもりなのかもしれなかった。

 再びたっぷりと落ちた沈黙の中、目を泳がせながら、私はなんとか口を開く。

「エレベーターに乗って、酔いがひどくなって」
「うん」
「気持ち悪くて、吐きそうかもってお伝えして」
「合ってる。その後は?」
「部屋に入って、靴を脱い……脱がせていただいて、あとは、なにも覚えていません」

 震える声で答え、さらに深く俯く。
 シャツの合わせ目を一層きつく握り締める。どうして胸元のボタンが外れている? それに、ジャケットはいつ脱いだ?

「鵜ノ崎さんは、その、どうしてこの部屋に?」
「放してもらえなかった」
「放し……私に? ですか?」
「ああ。ひと晩中」

 ぐら、と眩暈がした。
 酔った私は、醜態を晒した上に、鵜ノ崎さんに迷惑をかけたのだ。ひどく痛む頭の理由は、二日酔いが引き起こす体調不良とはとっくに一線を画していた。
< 28 / 76 >

この作品をシェア

pagetop